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コラム / IT化経営羅針盤
IT化経営羅針盤71 システム化の成功は「自社の要求をきちんと伝えきる」こと
2020.10.05
当社にお声がけ頂く経営者さんの共通の悩み事は、「システム化をしたいが、どうすれば良いのかわからない。それを進める社員もいない」というものがほとんどです。しかし当然のことならが、当社の支援を必要とせずとも自社だけで立派にシステム化を果たしている会社も世の中には数多くあります。今回はそのような自社推進型の好例をご紹介します。
「スズキ君さぁ、うちで作った生産管理システムの販売を考えているんだけど、今度見に来ない?」と久しぶりに声をかけてくれたのは、出身大学同期のS君。S君は、大学卒業後、親族が経営する従業員30名強の精密機械部品加工受託会社で役員をやっていたはずです。その会社は、顧客から図面と指示を預かり、それを各種工作機械を使って作る、という一品ものの製造を行っています。ものづくりの典型の様な会社役員のS君から突然「システムの販売を考えている」との連絡だったので、一瞬意味がわかりませんでした。もう少し話しを聞いてみると、「自社で使う為に作った生産管理システムの社外への販売を考えている。」とのことでした。まぁ、旧友ですし、長い間会う機会も無かったので、早速見に行くことにしました。
その会社は浜名湖の近くにあり、新幹線が止まりませんのでローカル線でのんびりと向かいました。駅で待ち合わせをしたS君と久しぶりに出会い、車で数分の会社に早速向かいました。外観上は地方でよく見かける普通の工場棟と事務所棟からなる社屋です。事務所に通してもらったのですが、一目で「上手にシステム化」されていることがわかりました。ものづくり会社の場合、システム化するとかなりの量のデータを扱うことになるので、どうしても大きなディスプレイが欲しくなります。特に営業事務を担っている担当者の作業効率向上を考えると、役職者よりも大きなディスプレイを使っていることが多いのですが、この会社の事務所では、その典型例の様な状態で、事務職の方の机は大型モニターが並んでいました。
工場を拝見してからシステムの話をしよう、ということになり現場を見ましたが、事務所とは一転して現場にはほとんどPCがありません。一工程終了した段階で図面とワークをセットで下流工程に引き渡すので、その際に完了登録をしているとのことでした。言葉で表すと一見非効率に見えるかもしれませんが、この現場では製造機械に担当者が付いて、そこに図面とワークを渡して作業する、工程と場所がセットで固定化しているので、工程終了時に1台で完了登録する方式で十分なのです。
きれいに整理整頓された現場から事務所に戻り、システムを細かく拝見しましたが、非常にシンプルな構成で解りやすさ満点です。どのように開発したのかを尋ねたところ「自分で仕様を作り、地元のソフトハウスに頼んで開発してもらった。画面の作りや細かい機能も拘りがあるので自分で仕様書を書いて指示した通りに作ってもらった。」とのことでした。要するに、仕様と機能に関わる要件定義と、外部設計部分を全部ユーザーがやった、ということです。仕様書現品も見せて頂きましたが、数十ページにも及ぶ手書き(!)の仕様書で、これをS君一人で書いたというので苦労がしのばれます。
S君は、このドキュメントを何と呼ぶのか知りませんでしたが、中には業務フロー図も画面設計も細かく書き込まれており、これはまさに「要件定義書」と「外部設計書」そのものです。画面デザインこそ「イマドキ」のクールさは無く質実剛健としていますが、ディスプレイに表示されているだけで遠くからぼんやり眺めても工場の繁閑が一目でわかる進捗管理画面や、客先から預かった図面の工程仕訳結果一覧など、S君の現場管理のノウハウがぎっちり積み込まれていることは強く感じられます。やりたいことだけシステム会社に話しをして後はお任せ、的な開発の仕方では決して実現することの無い画面と機能がそこに具現化していました。
S君には非常に大きな負担がかかったとは思いますが、中小企業における自己改革型のシステム化としてはお手本のような事例だと思います。つまり、
何を成し遂げたいのか?
それをどのようなもので実現していきたいのか?
について、「自分の言葉できちんと人(開発者)に伝えきっている
からです。このような状態であれば、その後のデジタル化PDCAも当然回りが良くなりますし、従業員の働き方もどんどん変わっていくはずです。
DX化が叫ばれて久しいですが、中小企業のデジタル化はこうありたいものですね。
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