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コラム / IT化経営羅針盤
IT化経営羅針盤228 「デジタル化=合理化」の短絡思考をやめよう
2024.10.29
「企業のデジタル化は業務の合理化だけで考えてはいけない」。本コラムでは何回かこの話題を取り上げてきていますが、今回は少しマクロ視点で持論を述べたいと思います。
企業のデジタル化について、日本企業はとにもかくにも「合理化(コストダウン、人件費ダウン)」を目的とするケースが目につきます。これを悪いと断ずるつもりは毛頭無いのですが、「デジタル化の目的を合理化だけにしてしまう」ことには大きな疑問を持たざるを得ません。新聞等では、「日本の企業の生産性が高くないため、グローバル市場の中で競争力の低下に歯止めがかからない」といった記事が日々見かけられますが、私はこの「生産性」という日本語単語が変な誤解を生んでいると思うのです。
生産性と言われると、我々日本人は効率を思い浮かべます。単位労働時間あたりの製造数だったり、使用材料の削減によるコストダウンを想像しがちです。しかし、マスコミが報じている生産性の定義は実は異なっており、単位労働時間あたりの売上げや利益を生産性と呼んでいるのです。この言葉の意味のすれ違いは大きな誤解を生んでいると考えられます。
いわゆる失われた30年の間、日本の多くの会社が合理化やコストダウンで生き残りを図りました。経営者は商品を値下げの方向に継続的に引っ張り、労働者側は賃上げではなく雇用の防衛を優先しました。バブル崩壊から数年で景気が良くなればそれでも良かったのかもしれません。しかし、景気の停滞が何十年も慢性化する中で、経営マインドは合理化メインに慣れきってしまいました。新しいことにチャレンジすることは失敗の恐れがある(無謀な)「投資」とみなされ、徹底的な現状維持による防衛的な経営を継続したわけです。この中で、コストダウンをはじめとする合理化は、高度成長期時代の成功体験でも「良いこと」と考えられていたわけですから、これだけが進められてしまいます。つまり、「合理化」という名目なのであれば現状維持のために多少のことはやる。しかしそうでないものは「今はやる時期ではない」という考え方の蔓延です。この文脈の延長線上で、先ほどの「生産性」を考えると、「日本はデジタル化が遅れているから生産性が上がらない」となり、「ならば、デジタル化によって今まで以上の合理化を進めよう」という部分だけが脚光を浴びることになります。これが、現在の「デジタル化の主戦場は合理化だ」という極端な解釈に繋がったと私は考えています。
一方、諸外国では我が国が30年間停滞している間にデジタル技術を使って商品の価値を上げる方向の企業変革を進めていたので、商品の姿がどんどんデジタルを使ったものに変化してゆきました。これによって、付加価値を高め、価格を上げ、売上げ利益を上げることに繋がっていき、マスコミの言う「生産性が高い」状態を作ったわけです。そこには日本人が考える「合理化・コストダウン」の考え方はそれほど大きくありません。それよりも、優れたものをつくるためにデジタル技術を使おう、というマインドの方が大きかったわけです。
このようなすれ違いをなくし、諸外国並みにデジタル技術を会社の価値や商品価値などの全体的な価値向上に使うべきだと私は思います。
ただし、そのアプローチ手法は諸外国とは異なるべきです。日本人には日本人的なアプローチがあるのです。それは、「カイゼン」です。ややもするとDXコンサルからは「改善マインドからは改革は生まれない」と否定を受けてしまいますが、伝統的に日本の企業はたゆまぬカイゼンによって非凡な成果を上げてきました。自動車であっても戦後まもなくは「安かろう悪かろう」の代名詞でしたし、家電製品も「猿まねだ」と酷評を受けました。しかし、たゆまぬカイゼンが結実し、日本のモノは最高・クールだ、といった評価を受けるまでになりました。これは、日本人の極めて特殊な能力だと私は考えています。この特殊能力はどんな時代であろうとも武器であることは間違いありません。 つまり、「デジタル技術を商品やサービスに応用するカイゼン活動」を繰り返し行うことが、これから日本企業が進めるべきデジタル化なのだという結論になります。何もいきなり商品を無理にデジタル改革する必要は無いのです。デジタル技術を商品に応用するPDCAサイクルを小さく短い周期で回し、平凡なカイゼンの積み重ねによる非凡な成果をねらうのが、日本人が得意とするデジタル化アプローチだと思うのです。そのためには、デジタル技術を多少なりとも知っている社員を増やすべきですし、下火になっている小集団活動もテコ入れする必要があります。このようなPDCAサイクルを回せるようにすることで、「デジタル化=合理化」という誤解が解け、企業の生産性向上に拍車をかけることができるのではないか。こう考えるに至っています。
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