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コラム / IT化経営羅針盤
IT化経営羅針盤210 過度な会計ソフト依存が招く会社停滞の始まり
2024.03.19
「鈴木先生、月次締めの負担を軽くする方法はありませんか?」とのご相談を数多く受けてきました。特に製造業の会社では、細かな部品や材料の仕入れも多く、販売も小さなロットを数多く手掛ける場合が多いので、月末締めに苦労するケースが多い傾向です。しかし、この売買に関する月次締めの負担が大きいことは、皮肉なことに使っている会計ソフトに起因する問題が多いことも確かです。それは、「売買の仕訳を過度に会計ソフトに頼っているから」です。
世の中に流通している会計ソフトは数多くありますが、ほとんどのソフトの場合受発注に関わる各種伝票の発行機能を持っています。会社を立ち上げた当初は、この機能の存在はとても助かると思います。何しろワープロを使わずとも納品書や請求書を発行することができ、仕訳にもこれらのデータが直結するのでとても便利です。取引先や顧客を会計ソフトのマスターに登録しておけば、いちいち住所などを記入する必要もなく、過去の類似した取引からコピーして新しい取引を登録することができるので、事務処理が非常に楽です。
会計ソフトにはある程度の財務分析機能がありますので、キャッシュフローの状態を確認したり、顧客別の売上分析などもできるため、これらの数字に頼って経営の方向性を考えることもできます。ただし・・・会社が小さいうちは、です。
経営が軌道にのりはじめ、事業を多角化することを考えようとした時に、突如として会計ソフトがこれらの活動を邪魔し始めます。例えば…
・事業を複数ライン化した場合に、ライン別の採算を分析できない
・商品をマスター管理できない会計ソフトの場合、商品別採算分析ができない
・在庫管理をしようとした時、在庫管理ソフトと会計ソフトの両方に手動でデータを登録する必要が生じる
・営業が得意先をマスター管理しようとすると、会計ソフト側の取引先マスターとの手動同期が必要となる
といった具合です。こんな八方塞がりの状況に陥るのは当然で、会計ソフトのおまけの機能を使っていたからに他なりません。会計ソフトのメーカーによっては、会計ソフトを中核としてそれ以外の在庫管理機能や生産管理機能をオプションパッケージとして販売し、組み合わせて使うことができるように準備している会社もあります。これらを使えば、会社の発展に伴い必要となる機能を買い増ししていくことができるので、上記の様な問題を解決できる場合もあります。しかし、それらのオプションパッケージが、会社の業態に適合する保証はどこにもありません。
逆に全く違うメーカーの生産管理や在庫管理のソフトを追加導入した場合、会計ソフトとのデータ連携機能を作り込むことが困難で、結果的に前述の問題が発生し始めます。そうなると仕方ありません。経理担当者が月末になると他のソフトからデータを取り出し、エクセルで加工し、会計ソフトに取り込む、といった「人間データ変換マシーン」と化します。変換作業が簡単であれば、ソフトウェアで何らかの自動化ができるかもしれませんが、データ変換の作業の中に、たとえば「部門が異なる場合の経費を決められたルールで按分して仕訳データを作る」といった場合には、担当者が集計と按分の作業をやらないと会計ソフトへ取り込むデータを作ることができません。会社が大きくなるにつれ、その作業も膨大になってきます。すると、冒頭申し上げた月次締め作業が大変になり、締め日に間に合わない、といった不具合が起き始めるのです。
では、会計ソフトはどのように使ってゆくべきなのでしょうか?究極の姿は「会計ソフトには会計と税務の仕事をさせれば良い」です。それ以外の業務でソフトウェアの力が必要になるのであれば、
営業:顧客管理、商談管理、見積り管理、採算管理 に特化したソフト
生産管理:受注管理、部材・在庫管理、生産計画機能、製造進行管理機能、出庫・出荷機能に特化したソフト
といった、各分野に得意なソフトを導入し、会計・税務に必要な情報だけを会計ソフトに送り込む様にするべきです。数字を按分する必要があるのであれば、これらのソフトの中で按分した上で会計ソフトに送りこみ、会計ソフト側で余計な細かな管理をしない、というポリシーに改めるべきなのです。売上の細かなデータ等は会計ソフトには送り込まず、グロス合計で仕訳データを作ってしまい、その明細が必要であれば、生産管理ソフト側を参照する、といった使い分けです。
このようにソフトの分担を明確に決めることによって、それぞれのソフトに経営上意味のあるデータが蓄積され、それをツールを使って分析することで管理会計への道が開けますし、顧客毎の採算も把握できるようになるでしょう。必要なら、部材毎の仕入れ金額推移も簡単に追えますね。
会計ソフトのおまけ機能を使ってはいけない、とは申しません。しかし、会社の規模が大きくなるにつれて、逆に弊害も発生し得る、ということを理解頂いた上で、会社の成長や事業の発展に見合った使い方をするべきだ、という原則に従って頂きたいと思います。
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