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コラム / IT化経営羅針盤
IT化経営羅針盤140 失敗を許容できなければ成長無し IT化はPivotの考え方で
2022.04.11
どのお客様でもそうなのですが、IT化やデジタル活用によるビジネス変革を目指す決意をされた社長の動きの速さと大胆さには非常に敬服するものがあります。これだけ素早く動けて初めて荒波の中を乗り越えてきた一流の経営者となることができるのだ、とも思います。ところが、この一点「素早く大胆に動く…」は時としてデジタル化での大きな失敗を招くものです。
その理由は実にシンプルで「成功の確証がまだ得られていないのに、過剰に大胆な行動や投資をするから」です。もちろん、これをすべてダメというつもりはないのですが、デジタルの分野だけで考えると大やけどを負ってしまい、「二度とデジタルなんかやるものか!」という負の意識が残ることはどうしても避けるべきだと思うのです。
以下は、当社にご相談があった本当の事例です。
A社さんは、当社のスポットコンサルティングで相談に来られ、自社の商品が全くデジタル化されていないので、この際センサーやIoTの力を借りて大きく改革しようという経営判断に至りました。社長からは部下に対し「とにかく他社よりも先に実現するように。できれば2か月以内に結果が欲しい」というはっぱをかけました。部下はそれにこたえるべく猛烈にプロジェクトを進め、必要な機器類の手配を終えていざ本番公開の日を迎えました。ところがそのオープンの当日、機器類の不具合が多発し、ソフトはエラーをひきおこし、並み居るゲストの前で社長は恥をかいてしまったのです。そもそもスポットコンサルの時に不具合が発生するリスクがあることをアドバイスしていたので、特段珍しいことではなかったのですが、何しろ規模が大きすぎ、さらにセレモニーまでやってしまったので、なかなか引っ込みがつかない状態です。スポットコンサルの際に私からアドバイスしていたことは、以下のものです。
・あくまでも小さく実施し、それを大きく育てることを考えること
・決して一度に手を広げすぎないこと(デジタルの技術は日々進化するので、一つのことを大規模に拡大するのは得策ではないし、完成度も他の業界の常識とは大きくかけ離れた未完成のものであることが多い)
・ちょっとやったらよかったこと悪かったことをこまかくレビューし、次のアクションにつなげること
ところが、社長の考えていた「小さく実施し…」が私から見ると大規模すぎたのです。中堅規模の企業だったので、スケールの大きなことを考える社長からすると「小さい」に相当する規模だったのだと思いますが、それでも実際にゲストに恥ずかしいところを見せてしまったのは、私にとっても社長にとっても結果的に規模が大きすぎるスタートだったのです。当社にいただいていた仕事がアドバイスまでだったので、実施規模のことも当日のごたごたのことも実際に見聞きすることはできませんでしたが、実に忸怩たる思いをしました。
あまりマスコミではこの表現をする人はいませんが、デジタル技術の活用については「Pivot(ピボット)」の考え方がとても大切です。Pivotとは、バスケットボールをご存じの方ならどなたも理解されていると思いますが、着地した足を軸足として次にどの方向に進むか変幻自在の動きができるようにする概念です。(バスケット用語と異なっていたらごめんなさい)
つまり・・・
小さく行動し
小さく踏み出した一歩目の結果を見直し
次の方向性や歩幅を細かく柔軟に変える
ことで、正しい方向に向けて歩みを進めるという進め方です。製造業で言えばPDCAサイクルですし、カイゼンと称してもよいかもしれません。これらとPivotが若干ことなるのは、「もしかすると軸足の方向とは全く逆方向に戻るかもしれないぐらいドラスティックに方向性を見直すことがある」ということでしょう。PDCAやカイゼン活動でいうステップバイステップとはニュアンスが少しだけ違います。
先にも述べた通り、デジタル関係の製品やサービスは常に発展途上です。枯れた技術のものはすでに普及期に入っているものだけであり、それを使ってもビジネス的な果実は小さいか他社追従程度になることが必然です。未完成であるものをどうやってうまく使ってゆくのか?というPivotの考え方でうまく利用してやらないことには大きな果実は得られません。
A社さんは、今回少し痛い目にあいましたが、それを教訓としてPivot的な考え方を採用し、本格的な方向性が見えるまで細かく小さくPivotを繰り返すプロジェクト活動に転換して現在進めています。小さな成功や失敗を糧にして次のアクションを決める。これがDXも含めてデジタル活用のコツなのだと強く思います。
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